vol.709『アメフト』

連日、テレビ・新聞紙面を賑わせている日大アメフト部の危険タックル問題。対応の拙さが世論の激しい批難を呼び、アメフト部のみならず、日本大学全体までバッシングを受けている。日大には「危機管理学部」という学部があるらしいが、今回の事案は、これ以上ない実地教材となってしまった。危機管理において最も重要なのは初動態勢であるということを改めて思い知らされた今回の事件。初動でつまずいてしまうと、信頼回復に向けた労力と時間は、起こした事態よりもはるかに大きなものになってしまう。

日大の監督・コーチは“相手のクォーターバック(QB)を潰してこい”という指示を選手が誤解して危険行為に及んだと釈明している。仮にそうだったとしても、首脳陣の教育・指導責任は免れ得ない。そもそも“潰せ”などという指示そのものがけしからんという人もいるようだが、アメフトなんて半分格闘技みたいな競技だから、そこまで言うのは酷だろう。私はアメフトファンでも何でもないが、アメフトを題材にした映画(当然アメリカ映画)を結構観ているので、おおよそのルールぐらいは分かるし、今回の危険行為がいかに大きなダメージを与えるかも見当が付く。

ウィル・スミス主演の実録社会派ドラマ 「コンカッション」(2016)。コンカッションとは「脳震盪」のこと。ウィル・スミスが演じるのはアメフト選手ではなくオマルという実在の法医学博士。彼は、自殺したピッツバーグ・スティーラーズの花形選手だった男性の解剖を担当する。その死に不審を抱き、脳の詳しい検査を行ったところ、新たな疾患“CTE(慢性外傷性脳症)”を発見する。それは、タックルによる脳への激しいダメージが蓄積することで引き起こされる脳の障害だった。さっそく論文を発表し警鐘を鳴らすオマルだったが、NFLはこれを即座に否定、様々な形で彼に圧力をかけてくる。

「日曜日はNFLのものだ。昔は教会のものだったが」─。NFL幹部が、オマルにそう言い放ち論文の撤回を迫る。確かに、米国においてフットボールは国教のような存在かもしれない。NFLと戦うということは米国民の大半を敵に回すに等しい。先に記者会見をした日大選手の勇気の比ではない。GS業界も、“安売りタックル”ばっかりやっていると、アタマがバカになっちゃうよと訴えても一向に止む気配なし…。

アメフト業界の群像劇 「エニイ・ギブン・サンデー」(1999)。アル・パチーノ演じるヘッドコーチがクライマックスで鬼気迫る形相で選手に檄を飛ばす。「我々は1インチに死力を尽くす。その1インチを勝ち進んでいくことが勝利か敗北かを決めるのだ!どんな戦いでも喜んで死ねる奴がその1インチを勝ち取れる!無駄に生きるな、熱く死ぬんだ!それがフットボールだ!!」─。超攻撃的なスピーチだが、選手の耳元で「やらなきゃ意味ないよ」などとささやくコーチとは雲泥の差。やはり、リーダーが、姑息なことを考えずに、思いのたけを自ら熱く語ることが組織には必要なんだなと感じ入った。

この映画で一番好きな場面は、衰えを見せ始めたQBが、妻に「俺、今度のプレー・オフを最後に引退しようかな…」と打ち明けるところ。洋の東西を問わず、こういう場面では妻が優しく抱擁したり、励ましたりするのが“お約束”だが、何といきなり強烈ビンタを食らわして「何言ってんのよ!アンタはまだやれるわよ!」とどやしつける。こんな“内助”もあるのねと感動。おれも弱気になったらかみさんに…。

アメフトを題材にした映画は本当に多いが、ベスト1はやっぱり「ロンゲストヤード」(1974)。刑務所内を舞台に囚人と看守がフットボールで激突する硬派アクション。主人公はNFLの花形選手だったが、八百長に加担した挙句、暴力事件を起こして収監されてしまう。主人公ら囚人チームは、 日ごろ残忍な仕打ちをする看守たちを次々に“潰し”にかかるのだが、日大タックルのようなシーンはない。しかし、刑務所長が日大監督の何十倍も憎たらしい奴で、主人公を窮地に陥れる。ここから先は見てのお楽しみ。主人公を演じるバート・レイノルズがとにかくカッコイイ。2005年にリメイクされたが、こちらは酷い出来栄えだったので観ないほうがよい。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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